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働き方・産業保健

【保健師監修】企業の健康経営とは?メリットや取り組み事例について

日本は超少子高齢化社会に突入しており、「健康経営」の重要性も増してきました。
しかし、まだまだ社会での理解や取り組みは進んでいないのが現状です。
そこで今回は、健康経営のメリットと取り組み事例について解説していきます。

健康経営とは?

健康経営とは、労働者の健康管理を企業経営の一部として捉えて、戦略的に実践していくことです。
また、2017年に閣議決定された未来投資戦略のなかで「国民の健康寿命の延伸」が目標として設定されており、その実現に向けて日本全体で推し進めている取り組みのひとつでもあります。
経済産業省のHPでは以下のように定義されています。

1.健康経営とは
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。
出所:健康経営(METI/経済産業省)

健康経営という言葉が注目され推進されている背景には、少子化による労働人口の減少定年退職年齢の引き上げ働き方改革などがあります。

健康経営の目的について

健康経営の目的は、労働者の健康保持・増進に投資することで、企業の生産性を向上させ、企業の成長につなげていくことです。
健康経営とは、今まで企業が負担すべき単なる「支出」として考えられてきた労働者の健康管理にかかる費用を、企業運営に必要不可欠な「投資」であるとする考えかたでもあります。
つまり、企業が労働者の健康維持・管理を能動的、積極的に行うことが重要であり、それによって労働人口の減少やワーク・ライフ・バランス、労働者の高齢化などの問題の解決が目的となっています。

企業が健康経営に取り組むメリットとは?

健康経営という言葉が広まっても、そのメリットが理解されなければ実践する企業は少ないでしょう。
ここでは、具体的な健康経営に取り組むメリットについて解説します。

労働者の健康状態改善による生産性の向上

企業が労働者の健康維持・増進へ投資することで、労働者の健康状態が改善し、生産性の向上が期待できるでしょう。
2021年に実施された経済産業省の調査によると、企業の健康投資レベルが高いと感じている人のほうが健康状態や仕事のパフォーマンスが良好なことがわかっています。

労働者の健康状態が悪い企業では、一人ひとりの生産性が低下するだけでなく、メンタルヘルス不調に陥り、休職や退職が多発してしまいます。
そのしわ寄せでほかの労働者への業務負荷が増して、さらにメンタルヘルス不調に陥る労働者が増えていくという悪循環が発生し、最悪の場合、企業の業務が立ち行かなくなる危険性もあります。

離職率の低下

健康経営は、離職率を大幅に低下させることができます。
経済産業省は健康経営に力を入れている企業と前後期平均の失業率の差をグラフ化しています。

出所:経済産業省「健康経営の推進について」

また、2016年に発表された独立行政法人労働政策研究・研修機構による調査によると、初めての正社員勤務先を離職した理由の1位は「肉体的・精神的に健康を損ねたため」で、2位は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」です。
つまり、新卒社員の多くが健康状態の悪化や労働時間の長さなどの、労働環境に関する問題で退職していることがわかります。
健康経営の推進によって健康維持・増進に努め、残業時間を管理して適切な労働時間を維持することは、退職する労働者の削減につながるでしょう。

対外的アピールによる企業価値の向上

健康経営の取り組みを対外的にアピールすることで、企業価値を向上させることができるでしょう。
健康経営では、労働者の健康に投資を行うことで、組織の活性化を促し、業績や株価の向上を目指します。
経済産業省が公表した健康経営に関する資料のなかで、健康経営銘柄2021に選定された企業の平均株価とTOPIXの推移を比較したものが公表されており、銘柄に選定された企業が近年大きく成長していることが明らかになりました。

出所:経済産業省「健康経営の推進について」

つまり、健康経営に取り組むことは企業の成長につながるため、長期的な視点で企業価値を測る投資家に対する大きなアピールとなるでしょう。

また、健康経営とはつまり「労働者を大切に扱うこと」であり、こうした取り組みの積極的なPRは、「労働者を大切に扱う会社」というブランドイメージを定着させ、優秀な人材の雇用につながります。
現在では、健康経営優良法人などの公的な認定制度もあり、健康経営の実施が可視化されやすくなっているため、よりその重要性は高まっていると言えるでしょう。

健康経営に対する国の取り組みについて

健康経営は日本経済の未来を左右する重要なキーワードであり、国としても健康経営推進のための取り組みが実施されています。
ここでは、健康経営に対する国の取り組みについて解説します。

健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、東京証券取引所の上場企業のなかから、優れた健康経営への取り組みを実施している企業を表彰する制度です。
優れた健康経営を可視化することで、企業価値の向上と他企業の健康経営への取り組みを促すことが目的です。
選定の要件は大きく分けて5つあります。

1. 経営理念・方針
2. 組織体制
3. 制度・施策実行
4. 評価・改善
5. 法令順守・リスクマネジメント

健康経営銘柄として選定されるには、毎年実施される健康経営度調査に回答する必要があります。

健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度とは、特に優良な健康経営への取り組みを実施している法人を認定する制度です。
健康経営銘柄と同じく、健康経営への取り組みを可視化することで企業価値の向上を目的としています。

健康経営優良法人認定制度は「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分かれており、それぞれの部門のトップ500法人が「ホワイト500」「ブライト500」として顕彰される仕組みです。
健康経営優良法人に認定されるとロゴマークが使用できるようになります。

ホワイト500とは?健康経営優良法人を目指すポイント

企業の健康経営の取り組み事例

認定制度の普及などもあり、すでに多くの企業で健康経営への取り組みが実施されています。
では、具体的にはどんな取り組みが企業で行われているのでしょうか。
2022年の健康経営銘柄50社のなかから、具体的な健康経営取り組み事例を紹介します。

キヤノン株式会社~健康第一主義を掲げて健康経営を実現~

キヤノン株式会社は「健康第一主義」「三自の精神(自発・自治・自覚)」という行動指針をもとに人材の育成や福利厚生、健康支援を行い、健康経営を実施しています。
具体的に行われている取り組みとしては以下のとおりです。

・生産性の向上につなげるための社内転職制度の導入
・特定保健指導の外部委託

キヤノン株式会社は労働者のメタボ増加への対策として、健保組合と共同で特定保健指導の外部委託を行い、リモート面談を含めた積極的な支援を実施しました。
その結果、メタボ該当者の割合が下がり、特定保健指導対象者も大きく減少しました。

ヤマハ株式会社~定期健診受診はゴールではなくスタート~

ヤマハ株式会社は「定期健診受診はゴールではなくスタート」というスローガンを掲げて、定期健康診断受診を奨励することで、健康リスクの顕在化と早期対応を行っています。
具体的に行われている取り組みは以下のとおりです。

・誕生月健診の実施
・生活習慣病をテーマにした集団健康教育の実施
・ヤマハグループ健康宣言を制定

「定期健診受診はゴールではなくスタート」というスローガンのとおりに、健康診断の結果をもとに保健指導などを行い、集団健康教育なども併せて実施することで、喫煙者率を大幅に減少させました。
また、「社員とその家族の健康は会社の財産」であるとするヤマハグループ健康宣言を制定し、周知することで、健康経営を推進していく姿勢が社内全体に浸透しています。

企業の健康経営、何から始める?導入手順について

健康経営を実現するためには、その導入方法を理解することが重要です。
大まかな健康経営の導入手順について理解しておきましょう。

1.健康経営の指針を明文化し社内へ周知する

「健康経営とはなんなのか」「なにを目指すのか」「具体的になにをするのか」などをしっかりと明文化して、社内へ周知しましょう。
最も避けたいのが、「企業の上層部が声高に健康経営を叫ぶだけで、現場では過酷な労働環境が一向に改善されていない」という状況です。

健康経営は企業全体で取り組むべき課題です。
首脳陣から現場まで同じ方向を向いて健康経営に取り組んでいくために、指針の明文化と周知は欠かせません。

2.健康経営を実施する組織を作る

実際に労働者の健康を向上させるためにはどんな施策が必要なのかを考えて、実行する組織を作ります。
企業規模にもよりますが、新たな部署を作るのが望ましいでしょう。
社内の人材に対して研修などを行いながら、保健師や健康経営アドバイザーなどの外部スタッフを利用して、組織作りを行っていきます。

3.健康課題を把握する

現時点で、企業はどんな健康課題を抱えているかを把握しましょう。
健康課題はストレスチェックや健康診断を実施することで明らかになっていきます。
特にストレスチェックの集団分析は、企業の健康課題を把握するうえで非常に重要なので、必ず実施しましょう。

ストレスチェックの集団分析とは?集計・評価方法や活用のしかた

また、産業医による職場巡視で事業場の問題点を把握するのも重要です。

4.課題解決のための計画を実行

ストレスチェックや健康診断によって明らかになった課題を解決するために計画を策定し、実行していきます。
実際に行動にうつすにあたり、以下の点が重要です。

・スケジュールを明確にする
・楽しみながら実施できるものにする
・数値として効果を確認する

むやみに計画を実施しても効果が薄いので、スケジュールを明確にして、計画の前後でどれだけ数値が改善したかがわかるようにしておきましょう。
また、労働者が楽しく実施できる計画にすれば、参加率が良くなり、高い効果が期待できます。

6.社内外へPRする

健康経営への取り組みを社外へ積極的に伝えていくことで、作業効率の上昇による生産性の向上だけでなく、優秀な人材の確保や企業価値向上などの効果も期待できます。
健康経営銘柄や健康経営優良法人を取得できれば、より大きい効果が期待できるでしょう。

また、社内への周知も重要です。
自分たちが行った施策によってどんな成果が上がったのかがわかれば、健康への関心につながり、企業全体として健康経営を推進していく空気の醸成につながるでしょう。

まとめ

今回は、企業の健康経営についてわかりやすく解説しました。
健康経営は、設備投資などと比べると目に見える効果が出にくいイメージから、いまだに投資を渋る経営者が多くいますが、ジョンソン・エンド・ジョンソンが自社で行った調査では、健康経営への投資は投資額に対して約3倍のリターンがあったという結果がでています。
つまり、健康経営への投資は企業価値を上昇させる近道なのです。

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<参考>
経済産業省「健康経営」
出所:経済産業省「健康経営の推進について」