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安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に働けるよう企業が配慮することを指し、使用者のみならず管理監督者にもその義務が課されています。また、安全配慮義務には、「メンタルヘルス対策」も含まれています。
今回は、産業医との関わりも含めたメンタルヘルス対策の側面から、安全配慮義務についてわかりやすく解説します。
目次
安全配慮義務とは?
安全配慮義務は、労働者の保護と労働関係の安定を得ることを目的として2008年に施行された「労働契約法」で明文化された職務上の義務で、従業員が安全かつ健康に働けるよう、企業が必要な配慮を行うというものです。
企業とは、経営者はもちろん、管理監督する立場にある労働者にも課せられます。
労働契約法第5条
労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」とあります。
これが、安全配慮義務の条文ですが、この中で次の2種の義務が定められています。
2)結果回避の義務
以下では「危険予知の義務」「結果回避の義務」それぞれの内容を説明しますね。
危険予知とは
危険予知とは、業務を行うことで予測される、労働者の心身に起こる危険を予見することです。
たとえば、高所で作業をする際、「足場を踏み外したら落下して怪我をしてしまうだろう」と、万が一の状況を想定することですね。
このように、「●●の条件下では○○という危険が予測される」と、業務を行うことで予見される危険を見出すことが危険予知であり、安全配慮義務では「危険予知」が義務付けられています。
結果回避とは
結果回避とは、危険が予知できた後、その状況を放っておくのではなく、危険が現実のものとならないよう対策を練ることです。
上の例で述べると、「万が一足場を踏み外してしまっても落下しないように、命綱を従業員に義務づける」などのような施策のことを表します。
危険予知ができても環境を整えなければリスクは下がりませんから、結果回避をすることで、初めて実際の災害を回避することができます。
安全配慮義務違反の罰則は?
安全配慮義務を怠ったことで職場において災害が発生すると、次の二側面から責任が問われる可能性があります。企業としては、安全配慮義務違反の罰則についてもしっかりと把握しておきたいものです。
①刑事責任
安全配慮義務の措置を行わなかったことで本人を死傷させ、起きた事象と業務の間に因果関係があることを立証することができると、業務上過失致死傷罪(刑法第 211 条)に問われる可能性があります。
5年以下の懲役や禁錮、もしくは100万円以下の罰金が科せられます。
②民事上の損害賠償責任
安全配慮義務違反があることで従業員本人や遺族が精神的苦痛を得た際、損害賠償を請求されることがあります。
慰謝料など労災保険給付が対象とならないものもありますので、その点を民事上の安全配慮義務違反における損害賠償として責任が問われるのです。
過去には数千万円から一億円程度の請求が認められた判例もありますので、安易に考えることはできない問題です。
安全配慮義務にはメンタルヘルスケアも含まれる?
安全配慮義務は、労働契約法第5条において「生命、身体等の安全には、心身の健康も含まれるもの」と、明文化されています。
つまり、先に述べた危険予知ならびに結果回避の義務は、メンタルヘルスの施策においても適応されるということですね。
メンタルヘルスは目に見えないものですから対応に苦慮するかもしれません。
従業員の声に十分に耳を傾けることが理解への第一歩です。
相手の話を途中で遮らず、相手の想いに関心を寄せながら聞くことができると、相手の信頼が得られ、メンタルヘルスにおける課題を見つける契機となります。
一方で、担当者のみで抱え込むことは好ましくありません。
メンタルヘルスは専門的な関わりが欠かせませんので、課題を認め次第、産業医や産業保健スタッフなど、専門職の助言を得ることが有意義です。
安全配慮義務を果たすために必要なことは?
安全配慮義務を果たし、事業場を適切に管理するためには、決して少人数で抱えこまず、組織的に対応することが好ましいものです。
次のような点に注目して取り組んでみましょう。
安全衛生管理体制の整備
企業が安全配慮義務を果たすために、安全衛生管理の体制整備は欠かせません。
産業医の選任や健康診断、ストレスチェックなどの法的義務やメンタルヘルス対策も去ることながら、従業員の声を収集できる仕組みづくりをすることが好ましいでしょう。
定期的な1on1を実施する、従業員の意見箱を設けるなど、従業員が意見を伝えやすい環境をつくることができると理想的です。そのような環境下では、担当者だけでは予想しえなかった状況や体制整備に気づくことができます。
職場環境の改善
企業の安全配慮義務としては、安全衛生管理の体制整備を整えるだけではなく、積極的に職場環境改善に臨むことも忘れてはいけませんね。
従業員が体制整備の活かし方を知らず、予算が足りないなどの理由で実行に移せないなどの状況があることは残念なものです。
安全衛生管理の施策が宝の持ち腐れとならないよう、従業員に周知を図り、現実的に実行するための予算編成が必要となるでしょう。
安全衛生教育の実施
安全衛生に関する意識についても、従業員に広く知ってもらうことが大切です。
皆が等しい知識を持つことができると、担当者らだけで事案を抱え込まないことにつながり、多様なアイディアを集める助けにもなることでしょう。
企業の安全配慮義務としては、管理職向けのラインケア研修、従業員向けセミナー、毎月行われる衛生委員会など、知識普及のための方法は幾重にも考えられます。
健康診断の実施
健康診断は企業の義務ですが、安全への配慮としても、全従業員が確実に健康診断を受けられるよう徹底した管理を進めましょう。安易に個人結果が洩れることのないよう管理する、受診していない従業員の状況を適切に把握するなどの配慮も大切です。
健康診断では、身体的に注意すべき事項が見つかります。それをもとに早めの対処に取り組むことができるため、病気の重症化を防ぎ、健康的な労働力を保持することが期待できます。
ストレスチェックの実施
メンタルヘルスも安全配慮義務の対象です。
ストレスチェックは、健康診断のメンタルヘルス版と考えましょう。高ストレス者と判定されることは、他方の「要検査」であると捉えて差し支えありません。
加えて、ストレスチェックは職場環境の課題を発見する助けにもなります。
80問版ストレスチェックは、管理監督者や衛生管理者だけでは把握できなかった職場内の課題を見つめる契機となりますので、積極的に活用したいものです。
まとめ
安全配慮義務において企業が取るべき対応は、実に多岐にわたります。
メンタルヘルスのように専門性の高い施策も求められるものですので、職場内で抱え込まず外部の助力を得ることも有意義です。
弊社では、産業医や保健師の派遣、ストレスチェックの実施、外部相談窓口の運営など、健康経営に必要なご支援を多岐にわたって実施しております。
些細なことでも構いませんので、お気兼ねなくご相談ください。
<参考>
厚生労働省「確かめよう労働条件」