2024年に発表された厚生労働省の調査では、86.0%の企業が相談窓口の設置と周知を行っていることがわかっており、社会的にハラスメント相談窓口の整備が進んでいます。
しかし、社内にハラスメント相談窓口を設置したものの、うまく活用できていない企業も少なくありません。
本記事では、相談窓口の基本、社内窓口が機能しない理由、そして企業が改善に向けてできることを解説します。
目次
ハラスメント相談窓口は法律で定められた義務
ハラスメント相談窓口の設置は労働施策総合推進法にて定められた企業の義務です。
いくら企業側が「意味ない」「必要ない」と感じていても、ハラスメント相談窓口は設置しなければいけません。
また、設置だけでなく、相談を受けた際に適切な対応がとれるように体制を整備することも求められています。
相談窓口は、パワハラだけでなくセクハラやマタハラ、就活者へ向けたハラスメントも含めて一元的に対応できることが望ましいとされています。
さらに、今後はカスタマーハラスメント(カスハラ)対応も加わる見通しです
ハラスメント相談窓口を設置するメリット
ハラスメント相談窓口は法令順守だけでなく、正しく運用すれば大きなメリットがあります。
まず重要なのが、早期発見・対応が可能になるという点です。ハラスメント相談窓口がしっかり機能していれば、深刻化を防ぐことができます。
相談できずに深刻化してしまうと、メンタル不調や休職、退職、企業側との対立などの問題に発展するケースも珍しくありません。
つまり、従業員の健康を守るだけでなく、ハラスメント相談窓口の整備は、訴訟や行政指導といった重大なリスクを回避する上でも重要な取り組みです。
さらに、正しく運用されているハラスメント相談窓口は、従業員に「困ったときに頼れる場所がある」という安心感や信頼感につながります。
企業への信頼は、生産性の向上や離職率の低下など、組織づくりの面でもプラスの効果が期待できます。
ハラスメント相談窓口の種類「社内窓口」と「外部窓口」
ハラスメント相談窓口には、人事部や総務部など社内に窓口を設置する方法と外部サービスを利用する方法があります。
社内窓口は、コストがかからず利用しやすい点がメリットですが、人事や同僚に知られてしまうかもしれない不安から従業員が相談をためらう場合があるため、外部相談窓口の設置はハラスメント対策に効果的です。
しかし、厚生労働省の調査では、ハラスメント窓口を設置した企業のうち、社内と社外の両方の窓口を設置した企業は41.2%にとどまります。
社内窓口のみ設置している企業は55.7%と、半数以上が社内窓口のみの運用となっています。
ハラスメント相談窓口の運用方法
ハラスメント相談窓口において重要なのは二次被害を防ぐことです。
窓口担当者の不用意な発言が相談者の心を大きく傷つけ、より精神的に追い詰める結果を招く可能性もあります。
そのため、窓口担当者は慎重な対応が求められます。
可能であれば、ハラスメント相談担当者向けのセミナーなどを受講することが望ましいでしょう。
プライバシーの順守
相談者の情報や相談内容はプライバシーであり、本人の同意なしに共有することは許されません。
また、相談することによって、相談者本人に不利益な取り扱いが起こることもあってはなりません。
相談者が安心して相談できる内容を整えましょう。
客観的証拠に基づいて公平に判断
双方向からヒアリングを行い、状況を正確に把握する必要があります。
その後、メールなど履歴や録音、周囲の証言など、客観的な証拠から事実を整理していきます。
適切な処置へとつなげる
事実関係に基づき、指導や配置転換、再発防止策の徹底など、適切な処置を行います。
ハラスメント相談窓口が機能しているとは言い難い状況
冒頭でも述べたとおり、ハラスメント相談窓口の設置は増えていますが、十分に機能しているとは言い難い状況です。
厚生労働省の調査では、ハラスメントを知った後の勤務先の対応として、パワハラでは53.2%、セクハラでは42.5%が「特に何もしなかった」と回答しています。
つまり、ハラスメントの事実を知った後も約半数の企業が適切な対応をとれていません。
多くの企業がヒアリングさえ行っていない現実
同設問では、そのほかに「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談にのってくれた」と回答した人がパワハラ・セクハラでそれぞれ24.4%と25.8%、「あなたに事実確認のためのヒアリングを行った」がそれぞれ18.0%と17.5%でした。
窓口に寄せられる相談のなかには明らかにハラスメントに該当しないような事例や判断の難しい事例などもあります。
しかし、ハラスメントを認識したにもかかわらず、8割以上の企業がヒアリングさえ行なっていない現実は、ハラスメント相談窓口が機能していない状況を如実に現しているのではないでしょうか。
社内のハラスメント相談窓口が機能しない理由
大前提として、ハラスメントは非常にデリケートな問題であり、対応が難しいものです。
「ハラスメントは問題であり、解決しなければいけない」という認識はあっても、二次被害を恐れるあまり後手を踏んでいる企業もあるでしょう。
対応フローが整備されていない
ヒアリングの進め方、事実確認の方法、記録の残し方、当事者保護の手順などが体系化されていないと、担当者が判断に迷い、結果として対応が後手に回ってしまいます。
担当者の知識不足
ハラスメントは法的な観点、心理的な観点、職場環境の観点など複数の要素が絡むため、人事労務部だけでの対応は難しく、重大な二次被害を招きかねません。
プライバシーや公平性を保ちにくい
企業や部署内の規模によっては、事実確認を行うだけでも相談者に大きなプレッシャーがかかる場合があります。つまり、事実確認そのものが難しく、「社内だからこそ動きにくい」という構造的な問題が生じやすいのが現実です。
安心して相談できる環境が整っていない
多くの相談者は「評価や配置転換に影響するのでは?」 という不安を感じており、被害について率直に話すことをためらいます。こうした状況は初動の遅れを招き、早期解決を難しくするでしょう。
社内のハラスメント相談窓口を機能させるために
社内のハラスメント相談窓口を機能させるためには、以下のポイントを押さえておく必要があります。
被害者のケアを最優先にする姿勢
相談者の話を否定したり、過度に疑ったりすることなく、安心して話せる場をつくることが信頼の第一歩になります。「まずは状況を正確に教えてください」という姿勢が大切です。
中立的な立場で公平に判断する
相談者と行為者、双方の話を丁寧に聞き、事実関係を整理した上で判断を進めます。一方の証言だけで早合点すると、誤った対応につながり、組織への不信感を生む原因になってしまいます。
窓口担当者への研修
守秘義務の徹底や二次被害を防ぐコミュニケーション、初動対応の手順、記録の取り方、法的な基礎知識など、実務で求められるスキルは幅広くあります。研修や外部セミナーを通じて専門性を高めることで、相談者が窓口を安心して利用できるでしょう。
相談後のフローを明確化
相談後から調査や対応の流れが明確化され周知されていれば、相談者は「相談した後にどうなるか」をイメージしやすく、不安の軽減につながります
プライバシーの保護を徹底
ハラスメント相談において、最も相談を妨げる要因は「誰かに知られてしまうのではないか」「評価に影響してしまうのでは」という恐れです。情報の扱い方や管理体制を明確にし、従業員に安心を提供することが重要です。
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大切なのは「一緒に解決策を探していく姿勢」です。
上記の取り組みを丁寧に積み重ね、さらにその周知を徹底することで、従業員が安心して相談できる環境につながります。
こうしたハラスメント相談窓口の運営を実現できれば、問題が大きくなる前の段階で相談が寄せられるようになるでしょう。
外部相談窓口も併用する「現実的な解決策」
社内窓口をどれだけ整備しても、会社には相談しにくいという従業員は一定数いるため、その受け皿として社外の相談窓口を併用する方法もあります。
外部相談窓口であれば匿名性が高く、社内の力関係に影響されない中立的な立場で対応してもらえるため、従業員も安心して相談できます。
さらに、企業にとっても、外部の専門家が直接対応するため、初動のミスや二次被害のリスクを減らすことができる点は大きなメリットです。
人員などの問題から、社内の窓口を完璧に整備していくのは難しいと感じている企業にとっては、外部相談窓口が現実的な解決策のひとつとなるでしょう。
「さんぽみち」運営元であるドクタートラストが提供している外部相談窓口[アンリ]では、国家資格を持つ相談員が迅速かつ適切に支援するため、社内では相談しにくい従業員の声を拾い、企業のハラスメント対策を強化する理想的な選択肢となります。
相談内容についても、相談者が実名報告を希望しない場合は、プライバシーを完全に保護した上で、企業には個人が特定されない形で内容を共有します。
また、必要な場合には産業医へつなぐことができるため、緊急時も対応可能です。
ハラスメント相談窓口に関するQ&A
Q1.窓口で相談したらどうなる?
状況のヒアリングを行い、その後に事実確認、必要に応じて調査や処置が進められます。相談者の意向を尊重しながら対応が行われます。
Q2.相談窓口の設置は必須?
パワハラ防止法により、企業には相談窓口の設置を含む相談対応体制の整備が義務付けられています。
Q3.労働局にパワハラを相談できますか?
できます。企業内で解決が難しい場合は、労働局の総合労働相談コーナーを利用できます。
Q4.匿名で相談することはできますか?
多くの外部相談窓口では匿名相談に対応しています。社内に知られたくない従業員でも安心して利用できます。
Q5.どんな内容でも相談していいの?
ハラスメントかどうか判断できない段階でも相談可能です。「違和感がある」「少し不安」など、初期のサインの時点で相談することで、問題の深刻化を防ぐことができます。
<参考>
・厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について」




