ストレスチェックを毎年実施しているものの、「本当に効果があるのか」「意味がないのではないか」と感じている担当者の方は少なくないでしょう。
結論からいうと、受検するだけで従業員の心理的なストレスが改善するという結果は、研究では確認されていません。一方で、結果をもとに職場環境改善まで行った場合には、ストレスの軽減や生産性の向上につながる可能性が示されています。
この記事では、厚生労働省の調査や研究データをもとに、ストレスチェックで得られる効果、実施内容による効果の違い、効果が出にくい理由と効果を高める方法を解説します。
目次
ストレスチェック制度の概要
ストレスチェック制度は、2015年12月に始まった制度です。常時50人以上の労働者を使用する事業場に、年1回の実施が義務付けられています。
2028年4月1日からは、50人未満の事業場にも実施が義務付けられます。
調査票は、標準的な57項目の「職業性ストレス簡易調査票」のほか、項目を減らした23項目版、項目を加えた80項目の「新職業性ストレス簡易調査票」があります。部署などの集団ごとに結果を集計・分析する集団分析は、57項目版でも行えます。集団分析と、その結果をもとにした職場環境改善は、事業者の努力義務とされています。
制度の目的や実施の流れは、以下の記事で解説しています。
ストレスチェックに効果はあるのか
ストレスチェックの効果は、研究によって結果が分かれています。
結果を正しく理解するために、効果が確認されていない点と、効果がある可能性が示されている点を分けて見ていきましょう。
受検だけでは心理的ストレスの改善は確認されていない
東京大学の川上憲人氏らによる厚生労働科学研究(2018年)では、全国の労働者を2年間追跡しました。
その結果、ストレスチェックの受検と職場環境改善は、2年間の心理的ストレス反応の改善には有意な効果を示しませんでした。
ストレスチェックを受けるだけで、従業員のストレスが下がるとはいえないということです。
しかし、そもそもストレスチェックはストレスの改善を目的としたものではなく、自分自身のストレスへの気づきを促し、セルフケアにつなげる制度であることは理解しておく必要があるでしょう。
職場環境改善と組み合わせることで効果を発揮する
一方で、常勤労働者3,891人を対象にした1年間の追跡研究(Imamuraら、2018年)では、ストレスチェックと職場環境改善の両方を経験した労働者で、心理的ストレス反応が有意に低下しました。
また、前述の川上氏らの研究でも、ストレスチェック後に職場環境改善を経験した労働者は、受検しなかった労働者に比べて、2年間で労働生産性の評価が有意に高まっていました。
これらの結果から、ストレスチェックの効果は、受検したかどうかよりも、結果を職場環境改善に活かしたかどうかで変わると考えられます。
調査や研究でわかっているストレスチェックの効果
心理的ストレスの改善以外にも、ストレスチェックの効果を示す調査や研究があります。主なものを紹介します。
従業員と事業者の意識が変わる
厚生労働省の委託事業「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」(令和3年度)では、事業者と労働者にストレスチェックの効果を尋ねています。
出典:厚生労働省「ストレスチェックの効果に関する調査研究結果等」
ストレスチェックは、従業員が自分のストレスに気づき、セルフケアに目を向けるきっかけになっていることがわかります。
事業場のメンタルヘルス対策が進む
川上氏らの研究(2018年)では、2016年にストレスチェック制度を開始した210事業場と、開始しなかった40事業場を比べています。
制度を開始した事業場では、メンタルヘルス対策の方向性が拡充した割合が73.7%(開始しなかった事業場は43.6%)、早期発見・対応の対策を新たに始めた割合が13.8%(同7.5%)と、有意に高くなりました。
ストレスチェックの実施が、事業場全体のメンタルヘルス対策を進めるきっかけになっていると考えられます。
面接指導や職場環境改善を「役に立った」と感じる従業員が多い
同じ研究班の労働者調査では、医師による面接指導が有用だったと答えた労働者は59%(2016年)、57%(2017年)でした。
職場環境改善が有用だったと答えた労働者は63%(2016年)、59%(2017年)でした。
面接指導や職場環境改善を経験した従業員の多くが、その意義を感じていることがわかります。
なお、ストレスチェックの目的であるメンタルヘルス不調の予防については、以下の記事で詳しく解説しています。
実施内容によってストレスチェックの効果は変わる
ここまでの調査や研究を、実施内容ごとに整理すると次のようになります。
受検だけで終わらせず、どこまで取り組むかによって、期待できる効果が変わります。
ストレスチェックの効果が出にくい理由
ストレスチェックに「意味がない」と感じる場合、その多くは、受検した後の取り組みまで進んでいないことが原因と考えられます。
受検して終わりになっている
川上氏らの全国労働者調査(2年目)では、受検者のうち高ストレス者と判定されたのは19%でした。
そのうち医師による面接指導を申し出たのは15%にとどまります。
また、ストレスチェック後の職場環境改善を経験したと答えたのは、回答者の3%でした。多くの職場で、ストレスチェックが受検と結果の通知だけで終わっていることがうかがえます。
管理職や従業員が目的を理解していない
管理職が「部署の成績表」のように受け止めると、集団分析の結果に反発したり、改善に消極的になったりすることがあります。
従業員が目的を知らなければ、受検を後回しにしたり、本音で回答しなかったりすることもあるでしょう。
制度の目的が共有されていないと、結果を改善に活かす土台が整いません。
ストレスチェックの効果を高める方法
調査や研究の結果を踏まえると、ストレスチェックの効果を高めるには、結果を職場環境改善と面接指導につなげることが重要です。
そのための方法を、優先度の高い順に紹介します。
集団分析の結果を職場環境改善につなげる
研究で効果との関連が最も示されているのは、集団分析の結果をもとにした職場環境改善です。
部署ごとの結果から、業務量、裁量、上司や同僚からの支援など、どの要因に課題があるかを確認し、改善策を決めて実行しましょう。
翌年のストレスチェックで結果を比べれば、改善の効果も確認できます。
職場の資源やワーク・エンゲイジメントなど、職場の状態をより詳しく把握したい場合は、80項目の新職業性ストレス簡易調査票も選択肢になります。
集団分析の進め方は、以下の記事で解説しています。
高ストレス者が面接指導を申し出やすくする
高ストレス者と判定され、実施者が面接指導を必要と認めた従業員から申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を行う必要があります。
しかし、申し出る高ストレス者は多くありません。
面接指導の内容や、申し出によって不利益な取り扱いを受けないことを事前に周知し、申し出やすい環境を整えましょう。
面接指導での産業医の役割は、以下の記事で解説しています。
管理職研修を行う
ストレスチェックは、職場の「良い」「悪い」を判定するためのツールではありません。
職場の課題を見つけ、改善につなげるための手段です。管理職にその意義を伝え、集団分析の結果を改善の材料として受け止めてもらうことが、職場環境改善を進める土台になります。
従業員に目的を周知する
ストレスチェックを実施する目的や、結果の取り扱いについて、研修、社内報、イントラネット、掲示物などで従業員に周知しましょう。
個人の結果は本人の同意なく事業者に提供されないことを伝えると、安心して回答してもらいやすくなります。
従業員にセルフケアを促す
ストレスチェックの結果を毎年比べると、従業員は自身のストレス状態の変化に気づきやすくなります。
結果の見方やストレスへの対処方法を研修などで伝え、セルフケアにつなげましょう。
まとめ
ストレスチェックは、受検するだけで従業員のストレスが改善するものではありません。しかし、従業員がストレスに気づくきっかけになり、事業場のメンタルヘルス対策を進める効果があることが報告されています。さらに、集団分析の結果をもとに職場環境改善まで行えば、ストレスの軽減や生産性の向上につながる可能性があります。
ストレスチェックを「受検して終わり」にせず、結果を職場の改善に活かしましょう。
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よくある質問
Q1. ストレスチェックに効果はありますか?
研究によって結果は分かれますが、効果はあると考えられます。受検だけで心理的ストレスが改善するという結果は確認されていません。一方、ストレスチェックと職場環境改善の両方を経験した労働者では、心理的ストレス反応が低下したという研究があります。また、従業員がストレスを意識するようになる、事業場のメンタルヘルス対策が進むといった効果も報告されています。
Q2. 受検するだけでも効果はありますか?
受検するだけでも、従業員が自身のストレスに気づき、セルフケアへの関心が高まる効果があると報告されています。ただし、受検だけで心理的ストレスが改善するという結果は確認されていません。効果を高めるには、面接指導や職場環境改善まで行うことが大切です。
Q3. ストレスチェックの効果を高めるには、何が大切ですか?
最も重要なのは、集団分析の結果をもとに職場環境改善を行うことです。あわせて、高ストレス者が面接指導を申し出やすい環境を整えること、管理職や従業員に目的を周知することも大切です。
Q4. ストレスチェックの効果が出ているかは、どう確認すればよいですか?
前年のストレスチェックの結果や集団分析の結果と比べる方法があります。職場環境改善を行った部署で、改善の対象にした項目の結果が変化しているかを確認しましょう。受検率や面接指導の申し出の数を毎年記録しておくことも、取り組みを振り返る材料になります。
参考
・厚生労働省「ストレスチェックの効果に関する調査研究結果等」
・川上憲人「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」
・Imamura K, et al. 「Effect of the National Stress Check Program on mental health among workers in Japan: a 1-year retrospective cohort study」 J Occup Health. 2018;60:298-306.







