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産業医面談の“守秘義務”と“報告義務”の微妙な境界線

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事業者は労働契約上、業務による過度の疲労や心理的負荷によって労働者の心身の健康を損なわないよう注意する健康配慮義務を負っています。
そして産業医の役割は、事業者がこの義務を果たすことができるよう事業者を補助することにあります。
そのため、産業医は治療等の医療行為は基本的に行わず、労働者の健康診断や面談、職場巡視を実施して労働者の健康状態を把握し、事業者に意見を述べることを主な職務としています。
したがって、産業医が労働者から職場でのパワハラやセクハラ、過重労働による心身の不調について相談を受けた場合には、これらの健康管理情報は配属先の上司などへの報告の対象となる場合があります。

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労働者の同意なしに報告し、トラブルに及ぶケースも

それでは、産業医は面談内容をすべて事業者に報告しても良いのでしょうか。
産業医も一般の医師と同様に守秘義務を負っています。

刑法134条の定めは産業医にも適用される

秘密漏示罪を定める刑法134条には、以下の定めがおかれています。

(秘密漏示)
第134条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
出所元:刑法

つまり、医師が正当な理由なく業務上知りえた他人の秘密を漏らした場合には6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処すとしており、これは産業医にも適用されます。

労働安全衛生法にも定めがある

労働安全衛生法105条も、産業医が健康診断や面談によって知り得た労働者の秘密を漏らすことを禁じています。

(健康診断等に関する秘密の保持)
第105条 第65条の2第1項及び第66条第1項から第4項までの規定による健康診断、第66条の8第1項、第66条の8の2第1項及び第66条の8の4第1項の規定による面接指導、第66条の10第1項の規定による検査又は同条第3項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。
出所元:労働安全衛生法

産業医であっても、労働者の同意がない限り、労働者の健康管理情報を上司に伝えてはならないのが原則です。

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状況によって、報告は義務とされている

他方で産業医は、労働者に健康上の問題があることを知ったときには、事業者にこれを指摘・報告する義務も負っています。
状況によっては、事業者に積極的な情報提示を行って、自覚を促すべき場合もあります。
この点について厚生労働省は、可能な限り本人の同意を得ることを基本としながらも、次のようなときは、労働者の同意がなくてもその健康管理情報を上司などの関係者に報告することができると見解を示しています。

(1)同意を得ることが困難であり、開示することが労働者に明らかに有益である場合
(2)開示しないと公共の利益を著しく損なうことが明らかな場合など

これらの具体的なケースは以下が挙げられます。

(1)労働者が自傷行為に及ぶ可能性が高い場合
(2)健康診断の結果、伝染病が発覚し、ただちに対応しなければ他の労働者に健康被害が生じる危険がある場合

報告範囲は最小限にとどまる

また労働者の同意の有無にかかわらず、報告が許される情報の内容やその報告先は、事業者が健康配慮措置を講じるために必要となる最小限の範囲にとどまります。
たとえば、労働者の血液検査結果の詳細な数値や疾病の具体的診断名、セクハラ、パワハラの具体的な当事者名などの情報は必ずしも健康配慮措置のために必要とはされません。
産業医は労働者に対して守秘義務を負う以上、上司らに報告する必要性があると判断した場合、まずは労働者にその旨を説明し、同意を得るべきです。
それができない事情があったとしても、可能な限り相談者が特定されることのないようにする等の配慮が必要です。

ストレスチェック後の高ストレス者面談は?

従業員数50名以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務づけられていますが、実施後には高ストレス者との産業医面談を行います。
特に、高ストレス者面談では、センシティブな情報を扱うことになり、上司や会社側への報告には、注意を払う必要があります。
産業医には、適切に情報を扱い、未然にストレスによる事故や病気を防止する役割がいっそう強く求められています。