昨今、さまざまな業界でハラスメントが話題になっています。
厚生労働省もガイドラインを作成し、社会的にパワハラやモラハラ、セクハラなどの防止に向けて動き出してはいますが、Job総研の調査では直近1年以内に被害を受けた人が5割を超えるなど、防止策が徹底しているとは言い難い状況です。
この記事では、職場での代表的なハラスメントやその原因、事業者側が心がけるポイントを解説します。
目次
職場のハラスメント防止対策とは?
厚生労働省のハラスメント防止ガイドライン内では、事業者が講ずべき措置として以下のポイントを示しています。
・ 相談窓口の整備
・ ハラスメントに対して迅速に対応するために必要な体制の整備
・ 産休や育休などを含めた施策の整備
・ 相談者と行為者のプライバシーの保護
まずは会社としてハラスメントを許さない姿勢を打ち出して、従業員全体に周知する必要があるでしょう。
会社としての姿勢や対処の内容を就業規則などに規定して、従業員全体の意識を高めることは、ハラスメントの未然防止につながります。
パワハラ対策のための相談窓口設置は、会社の規模にかかわらずすべての企業に義務づけられています。
しかし、窓口設置だけでなく、担当者に対しての研修や相談対応マニュアルの作成、人事労務部門との連携など、相談に対して、適切かつ迅速に対応できる体制の整備が重要です。
また、相談者のプライバシーは保護され、ハラスメント相談によって不利益な取り扱いが決して行われることがない旨を理解してもらいましょう。
これは行為者も同様です。
また、産休や育休などの制度の周知と理解を進めることで、そもそもマタハラなどの背景となる原因を解消しておくことも重要です。
職場におけるハラスメントとは?代表的なハラスメントについて
ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、ここでは職場で起こりやすい代表的なものについて解説します。
パワハラ(パワーハラスメント)
パワハラは、職場での立場や人間関係などの優位性を利用して行われるハラスメントを指します。
どの企業にも上司と部下という関係性が存在するため、最も起こりやすいハラスメントと言えるでしょう。
厚生労働省のハラスメント防止ガイドラインでは、以下のようにパワハラを定義しています。
<職場におけるパワーハラスメントとは>
○職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素を全てみたすもの。
出所:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
具体的には、以下のような言動がパワハラに該当する可能性があります。
・ フロア全体に聞こえるくらい大きな声で怒鳴りつける
・ 特定の社員に対してだけ、仕事の指示を出さなかったり、ミーティングに呼ばなかったりする
客観的にみて、業務上必要であり相当な範囲で行われる業務指示や指導についてはパワハラに該当しません。
マタハラ(マタニティハラスメント)
マタハラは妊娠・出産をした女性労働者や育児休業などを申し出た男女労働者に対して行われるハラスメントを指します。
男女雇用機会均等法と育児・介護休業法にてマタハラの禁止が明文化されています。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第9条
<中略>
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
出所:「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」
(不利益取扱いの禁止)
第10条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第9条の5第2項の規定による申出若しくは同条第4項の同意をしなかったことその他の同条第2項から第5項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
出所:「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
具体的には、以下のような言動がマタハラに該当する可能性があります。
・ 育児休業から復帰した社員を、本人の意向を確認せずに降格・減給する
・ 育休取得を申し出た男性社員に「男が育休を取るのはおかしい」と発言する
マタハラには主に、育休や産休などの制度への理解の乏しさから発生します。
そのため、会社として、育休や産休といった制度の周知に努め、理解を促すことで、マタハラの背景となるそもそもの原因の解消が重要です。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)
セクハラは、未だに個人の問題として扱われがちですが、雇用管理上の問題と捉えて、企業としての対応が求められます。
厚生労働省が定めたガイドラインにはセクハラについて以下のように定義されています。
職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。
職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれます。
また、被害を受ける者の性的指向や性自認にかかわらず、「性的な言動」であれば、セクシュアルハラスメントに該当します。
出所:厚生労働省「職場におけるセクシュアルハラスメント」
基本的には被害を受けた人の主観を重視しますが、「労働者の意に反する性的な言動」や「就業環境を害される」の部分の判断に関しては、事業主の防止のための措置義務の対象となることから、一定の客観性も必要とされています。
具体的には、以下のような言動がセクハラに該当する可能性があります。
・ 食事やデートに執拗に誘い、断られても繰り返す
・ 職場のグループチャットに性的な画像や冗談を投稿する
カスハラ(カスタマーハラスメント)
職場で起こりうるハラスメントとして、カスハラが近年問題となっています。
カスハラは顧客などからの不当なクレームや言動によって、就業環境が害されるハラスメントです。
顧客等(※1)からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
※1:「顧客等」には、商品やサービスを利用した者だけでなく、これから利用する可能性のある潜在的な顧客を含みます。
出所: 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
2025年4月には改正労働施策総合推進法が施行され、企業によるカスハラ対策が法律上の義務となりました。事業主はカスハラの内容や対応方針を明確にし、相談体制を整備するなど、必要な措置を講じることが求められています。
業種や企業によって顧客対応の方針が大きく異なるため、カスハラの基準も変わってくるのですが、「要求内容の妥当性」や「顧客の行為が社会通念上妥当な範囲であるか」といった判断基準があります。
具体的には、以下のような言動がカスハラに該当する可能性があります。
・ SNSで従業員の個人情報を特定し、誹謗中傷を投稿すると脅す
・ 「お客様は神様だ」と主張し、土下座や過剰な謝罪を要求する
なぜ職場でハラスメントが起きるのか?要因について
ハラスメントが起こる要因としては以下のものがあります。
・ コミュニケーション不足
・ マネジメント能力不足
・ 職場環境・組織風土
人それぞれ価値観は大きく異なるため、自分が「これぐらいなら大丈夫だろう」と思っていても、相手を大きく傷つけてしまっていることがあります。
こうした価値観の違いはハラスメントの大きな原因の一つです。
また、パワハラの多くはコミュニケーション不足やマネジメント能力不足から起こります。
管理職の方には、積極的に部下とコミュニケーションをとり、相手を尊重する姿勢が求められるでしょう。
ハラスメントは職場環境や組織風土から引き起こされる場合もあります。
重すぎるノルマや業務量の多さ、劣悪な労働環境はストレスにつながり、ハラスメントが起こりやすい土壌を作りだしてしまうでしょう。
職場のハラスメント対策とその事例
冒頭に企業が行うべきハラスメント対策を述べましたが、具体的にはどんな施策が必要なのでしょうか。
ここでは、実際の事例を交えて、具体的なハラスメント防止策を紹介します。
管理職にハラスメント防止研修受講を徹底(N社)
東京都のN社は就業規則とは別に「ハラスメント防止規定」を制定し、グループ全体へ周知を行いました。
また、職場環境の悪化を防止するために「ハラスメント防止や良好な職場コミュニケーションのための研修」を開催し、全管理職へ受講を義務付け、ハラスメントの撲滅に取り組んでいます。
そのほかにも、ポスターなどでハラスメント防止を呼びかけ、社員の意識向上を促進しています。
ハラスメント処分の判断基準を懲戒規程で示した(D社)
D社は就業規則に懲戒事由に妊娠・出産・育児休業などに関係するハラスメントやセクハラが含まれることを記載しました。
また、懲戒処分にあたっての判断要素も明確にして、就業規則とは別にパンフレットを作ることで、社内全体への周知を行っています。
丁寧な相談窓口を目指して(X大学)
X大学では、まず理事長、学長、総務責任者、人事責任者の連名で「ハラスメントのない明るいキャンパス・職場とするために」という宣言を発信しました。
また、複数のキャンパスそれぞれに相談窓口を設定し、窓口担当者1名に加えてインターン的に1名同席させ、組織的な研鑽と育成に取り組んでいます。
相談時には「相談者を徹底的に守る」「事実関係の確認は予見を持たずにニュートラルにあたる」「行為者と申し立てられた人には『当事者性』を求める姿勢であたる」ことを心がけ、時間をかけて丁寧な対応を行っています。
もし職場でハラスメントが起きたら
職場でハラスメントの相談があった場合、中立・公正な目線を持って事実確認を行いましょう。
まずは、相談者からの話に耳を傾け、どんな行為があったのか、どんな問題解決方法を望んでいるのかをヒアリングします。
つぎに、行為者や第三者への事実調査を行いますが、この際に犯人扱いするような姿勢で調査を行ってはいけません。
ハラスメントは非常に繊細な問題であり、中立な立場で調査を行うことが重要です。
相談者が行為者に対しての調査を望まない場合は研修の実施などで対応する場合もあります。
調査の結果、ハラスメント行為が認められれば加害者への処分を行います。
この際に、行為者を断罪するだけではなく、自身のハラスメント行為を自覚させ、反省を促して、周囲と健全な関係が築けるように支援していくことが重要です。
また、相談者へのフォローはハラスメントの有無に関わらず必ず行う必要があります。
相談者の気持ちに寄り添い、産業医などによる面談の実施が望ましいでしょう。
職場でのハラスメント対策には外部相談窓口を
ハラスメントの多くは明るみに出ることはありません。
それはハラスメントの相談に対するハードルの高さにあります。
「自分が悪いから……」と自分を責めてしまったり、「状況を悪化させてしまうかも……」と相談窓口への不安から相談をためらったりと、会社側がハラスメントの存在に気がつけず、従業員がメンタルヘルス不調を発症してしまうケースが後を絶ちません。
こうした問題には外部相談窓口の設置が効果的です。
会社の外に相談窓口を設置することで、社内では話しにくい相談も受け付けられるため、相談に対するハードルがぐっとさがります。
「さんぽみち」運営元であるドクタートラストが提供している外部相談窓口サービスである「アンリ」は相談員が保健師、公認心理師、精神保健福祉士、保育士などの国家資格所有者なので、従業員が安心して相談することができます。
また、産業医と連携しているため、本人の希望があればすぐに産業医へとつなぐことも可能です。
職場でのハラスメント対策をお考えの企業さまは、ぜひお気軽にご連絡ください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 職場のハラスメント防止対策として、企業が最低限やるべきことは何ですか?
厚生労働省のガイドラインでは、①方針の明確化と周知・啓発、②相談窓口の整備、③迅速に対応するための体制整備、④産休・育休などの施策整備、⑤相談者と行為者のプライバシー保護の5つを事業者が講ずべき措置として示しています。まず会社としてハラスメントを許さない姿勢を就業規則などに規定し、従業員全体に周知することが重要です。
Q2. パワハラと通常の業務指導の違いは何ですか?
客観的にみて業務上必要であり、相当な範囲で行われる業務指示や指導はパワハラに該当しません。パワハラは「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3要素をすべて満たすものを指します。
Q3. カスハラへの対応は企業の義務ですか?
はい、2025年4月に改正労働施策総合推進法が施行され、企業によるカスハラ対策が法律上の義務となりました。事業主はカスハラの内容や対応方針を明確にし、相談体制を整備するなど必要な措置を講じることが求められています。
Q4. なぜ職場でハラスメントが起きるのですか?
主な要因として、価値観の違い、コミュニケーション不足、マネジメント能力不足、職場環境・組織風土の4つが挙げられます。自分では「これぐらいなら大丈夫」と思っていても相手を傷つけてしまうケースも多く、重すぎるノルマや劣悪な労働環境もハラスメントが起こりやすい土壌をつくります。
Q5. ハラスメントが発生した場合、企業はどのように対応すればいいですか?
まず相談者から話を聞き、どのような行為があったか、どのような解決を望んでいるかをヒアリングします。次に中立・公正な立場で行為者や第三者への事実調査を行います。ハラスメント行為が認められた場合は加害者への処分とあわせて反省を促します。相談者へのフォローはハラスメントの有無にかかわらず必ず行い、産業医などによる面談の実施が望ましいです。
Q6. 社内相談窓口だけではなく外部相談窓口を設置するメリットは何ですか?
社内窓口では「状況が悪化するかも」「自分が悪いのかも」という不安から相談をためらう従業員が多く、ハラスメントが表面化しにくい状況が生まれます。外部相談窓口を設置することで社内では話しにくい相談も受け付けられ、相談へのハードルが大きく下がります。ドクタートラストの「アンリ」では保健師・精神保健福祉士・公認心理師などの国家資格保有者が対応し、必要に応じて産業医へのつなぎも可能です。
<参考>
PR TIMES「Job総研による『2023年 ハラスメント実態調査』を実施 被害7割が”上司”のパワハラ 企業の防止対策不十分の声顕著」
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
厚生労働省 明るい職場応援団「職場のパワーハラスメント対策取組好事例集(PDF)」
厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!(PDF)」







