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メンタルヘルス

【保健師監修】メンタルヘルスに対する企業の取り組みとは?事例を紹介

メンタルヘルスに対する企業の取り組みとは?事例を紹介

この記事は9分で読めます

厚生労働省が発表した2020年度の労災補償状況によると、精神障害による労災件数は右肩上がりで増加し続けており、各企業のメンタルヘルス対策が急がれます。
しかし現状、企業が取り組むべきメンタルヘルス対策の具体的な内容はあまり知られていないため、企業での導入が思ったほど広がっていないのも事実です。
そこで今回は、企業におけるメンタルヘルス対策の具体的な取り組みについて、実際の事例を交えてわかりやすく解説します。

メンタルヘルスとは

メンタルヘルスは、厚生労働省において以下のように定義されています。

精神面における健康のこと。
日本語では精神(的)健康、心(こころ)の健康と称されることが多い。
精神疾患からの回復だけではなく、社会・職場・家庭等の環境に適応できているか、いきいきと仕事ができているかといったポジティブな部分も含めた意味合いで使われることが少なくない。

出典:メンタルヘルス | e-ヘルスネット(厚生労働省)

メンタルヘルスとは、心身の健康や職場環境の改善を考えるときに幅広く用いられる言葉であり、「メンタルヘルス対策」や「メンタルヘルス不調」といった使われ方をすることが多いです。
以前は個人の問題とされてきたメンタルヘルスですが、最近では企業による健康づくりが注目され、メンタルヘルス対策への取り組みが求められています。

何から始めればいい?企業におけるメンタルヘルスへの取り組み方

企業でもメンタルヘルス対策が重要だということはわかっていても、具体的に何から始めればいいのかわからないという場合も多いでしょう。
企業でメンタルヘルス対策に取り組む際は、メンタルヘルス予防の段階を示した「3つの予防」の観点が非常に重要です。

<メンタルヘルス3つの予防>

・メンタルヘルスの不調をあらかじめ防止するための1次予防
・労働者のメンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応をする2次予防
・休職者の職場復帰支援を含めて、再発を防ぐ3次予防

メンタルヘルス対策で大切なのは、3つの予防を網羅することです。
ここからは、企業におけるメンタルヘルスへの具体的な取り組み方について、詳しく紹介していきます

目的を明確にする

まずはメンタルヘルス対策を通して、どのような企業、職場を目指したいのか長期目標をたてましょう。
また、それを実現するための年次目標も設定します。
その際にメンタルヘルス対策を、ただ単に労働者のメンタルヘルス不調への対応とするのではなく、事業場内のコミュニケーションの円滑化や、職場環境の整理など、幅広い視点でとらえることが重要です。

担当者と責任者を決める

企業がメンタルヘルス対策を始めるときは、必ず担当者と責任者を決めましょう。
厚生労働省が策定した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」でも、メンタルヘルス対策を進めるためには「事業場内メンタルヘルス推進担当者」の選任を求めています。
事業場内メンタルヘルス推進担当者は、産業医の助言、指導を得ながら、実際に面談やメンタルチェックなどの実務をおこないます。事業場の各部門や衛生委員会、産業医、外部のクリニックなどと連携をとりながら、メンタルヘルスケアを推し進めていくのが役割で、衛生管理者や常勤の産業保健師の中から選任することが望ましいとされています。
責任者は一般的に人事部の上長が選任される場合が多いです。

職場の実態を把握

企業がメンタルヘルス対策を実行するにあたっては、職場の実態を把握してストレス原因を知る必要があります。
管理監督者による日常的な観察、産業医などによる職場巡視、労働者からのヒアリングなどから、事業場のストレス原因を特定しましょう。
また、ストレスチェックの集団分析は年代や性別、部署といった集団ごとの数値が把握できるため、事業場内のストレス原因の特定を分析することに長けています。

衛生委員会での意見聴取・審議

企業のメンタルヘルス対策としては、衛生委員会による意見聴取や審議も重要です。
衛生委員会とは、事業場の衛生や安全について、労働者と事業者の意見を交換する場です。
実態に即したメンタルヘルス対策への取り組みを行うためにも、衛生委員会でしっかりとヒアリングを行うと良いでしょう。
また、企業の具体的なメンタルヘルス対策の実施方法や、個人情報の保護に関する規定の審議なども衛生委員会でおこないます。
特にストレスチェック実施にあたっては、個人情報の取り扱いや実施方法などをあらかじめ衛生委員会で決定し、労働者へ周知する必要があります。

計画立案

厚生労働省が公表した「労働者の心の健康保持促進のための指針」において、企業はメンタルヘルス対策の一環として「こころの健康づくり計画」を策定することを求めています。
こころの健康づくり計画とは、メンタルヘルス対策を長期的、計画的に運営するための計画であり、その策定には「4つのケア」という観点が重要です。

<労働者の心の健康の保持促進のための指針における4つのケア>

・ セルフケア
・ ラインによるケア
・ 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
・ 事業場外資源によるケア

企業のメンタルヘルス対策では、上記の4つのケアを継続的におこなうための計画を立てていきます。計画を立てる際は、労働者からのヒアリングをもとに、現状に則した形で進めていくことが重要です。
最終的にこころの健康づくり計画は、衛生委員会で慎重に審議したうえで決めていくのですが、以下の事項を盛り込むことを「労働者の心の健康保持促進のための指針」では求めています。

<労働者の心の健康保持増進のための指針>

・ 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
・ 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
・ 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
・ メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
・ 労働者の健康情報の保護に関すること
・ 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
・ その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

社内体制・相談窓口の整備

もし労働者がメンタルヘルス不調に陥ってしまった際に、気軽に相談できる社内体制や相談窓口が整備されていれば、早期に適切な対応をとることができます。
そのため、社内体制や相談窓口の整備も、企業のメンタルヘルス対策としては大事な取り組みです。
企業が事業場ごとに設けるべき窓口は主に4つあります。

・ 管理監督者への相談窓口
・ 産業医・産業保健師への相談窓口
・ 外部クリニックへの相談窓口
・ 人事労務担当者への相談窓口

気軽に相談できる①管理監督者や②産業医・産業保健師の社内窓口だけでなく、③外部クリニックなどのより専門的な機関への相談窓口も整備しておくことが大切です。
またメンタルヘルス不調は、職場配置や人事異動、労働時間と密接に関係している場合が多く、④人事労務担当者への相談窓口も整備しておくことで、メンタルヘルス対策が適切に進行します。
また、労働者が相談しやすいように、電子メールや電話での相談方法も整備しておきましょう。
注意しなくてはいけないのが、個人情報の取り扱いです。もし相談の事実や内容を産業医などと共有する場合は、必ず相談者の同意を得る必要があります。相談したことによって労働者に不利益が発生することは絶対に避けなければいけません。

教育研修の実施

メンタルヘルス対策のために企業が教育研修を実施する場合は、労働者だけでなく管理監督者や事業場内の産業医、産業保健師なども対象とすることが望ましいでしょう。
労働者全体へ実施することで、社員一人ひとりのメンタルヘルス対策への意識を高められたり、理解を深められたり、特にセルフケアの実施によって一次予防が期待できます。
また、管理監督者への教育研修は、部下の健康の管理や職場環境の改善といったラインケアの促進につながるため、非常に重要です。

メンタルヘルス対策で重要な「ラインケア」とは?

すでに専門的な知識をもっている産業医や産業保健師にも、外部クリニックからの教育研修や情報提供の場を設けることで、事業場全体のメンタルヘルス知識の底上げになるでしょう。

ストレスチェックの実施

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックが義務づけられています。
企業側は毎年ストレスチェックを実施する必要があり、そこで高ストレスと判定された労働者は産業医面談を受けます。
ただし、ストレスチェックの役割は、メンタルヘルス不調者を発見するだけではありません。ストレスチェックを実施することで労働者本人のストレスへの気づきを促し、その対処や職場環境の改善を行い、メンタルヘルス不調を予防するのが何よりの目的です。
注意点として、ストレスチェックの結果は個人情報なので取扱いに注意することが挙げられます。また、ストレスチェックの結果やその取扱いによって、労働者への不利益が起こらないように留意しなければいけません。

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職場復帰における支援

企業のメンタルヘルス対策で特に重要なのは、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための予防です。
しかしその一方で、メンタルヘルス不調によって休職してしまった労働者に対する、職場復帰のための支援にも取り組む必要があります。
まずは、休職者が円滑に職場に復帰し、また継続して働くために、産業医などの助言を受けながら衛生委員会において「職場復帰支援プログラム」を策定します。プログラムを実施するにあたって必要な事業場の体制整備や規定の整備をおこないましょう。
実際に職場復帰支援プログラムに取り組む際は、周知を徹底し、組織的かつ計画的に取り組むことが求められます。大切なのは事業場内の管理監督者や産業保健スタッフとコミュニケーションをとりながら、労働者に無理のない範囲で職場復帰支援プログラムを進めていくことです。

メンタルヘルスに対する企業の取り組み事例

それでは実際にメンタルヘルス対策に取り組んだ企業の取り組み事例をご紹介します。
ここで紹介するのは、経営者が指導力を発揮してメンタルヘルス対策が進んだ企業の取り組み事例です。

A社は日本各地に事業場を持つ大企業で、組織的に産業保健機能を運営していくことが求められていました。そこで経営者が指導力を発揮し、組織的かつ計画的なメンタルヘルス対策を進めていったのです。

① 経営者が社内誌に「健康を守る」というタイトルで寄稿した

A社では、経営者が社内誌を活用して、メンタルヘルス対策を積極的に推し進める発表をし、それが企業全体の意識が変わっていくきっかけになりました。
また、メンタルヘルスは個人の問題ではなく、経営者が労働者の健康を守らなければいけないと公言することで、管理職の意識改革を行いました。

② 労働者と管理者両方への教育研修、ストレスチェックを毎年行った

経営者の発表後、A社では労働者と管理者へ教育研修を行うことで、セルフケアとラインによるケアが充実しました。また、ストレスチェックによる労働者全体へのアプローチに加えて、メンタルヘルス不調者への対応も手厚く行い、1次予防と2次予防の両面からアプローチしていきました。

③ 事業場の管理監督者が管理者用の対応フローを作成した

A社では、メンタルヘルス不調者を早期発見するために、管理者用の対応フローを作成し、ラインによるケアをスムーズに実施できるようにしました。
また、労働者から産業医や産業保健師への連絡方法を整備していったのもA社が実施した有用な取り組みのひとつです。

④ 就業上の配慮や職場復帰に必要な情報の周知の徹底

メンタルヘルスに対する企業の取り組みとしては、予防や早期発見以外に、メンタルヘルス不調者への対応も必要です。
メンタルヘルス不調者に対する就業上の配慮や、休職者の職場復帰に必要な情報を周知することで、労働者のメンタルヘルスに対する意識が高まり、労務管理に健康管理という観点が加わりました。

⑤ ①~④を継続的に行うことによって、健康管理への意識が大きく変わった

A社では、①~④を継続的に行うことで、特に管理監督者と人事労務担当者の意識が大きく変化して、本気でメンタルヘルス対策へ取り組むようになっていきました。
また継続的、計画的に行うことで、企業の文化としてメンタルヘルス対策へ取り組む姿勢が見られるようになりました。

⑥ 管理監督者と人事労務担当者、産業医のコミュニケーションがスムーズになった

A社では、企業全体の健康管理意識が高まったことで、管理監督者や人事担当者、産業医などがそれぞれの立場から意見交換を行うようになり、産業医のアドバイスや改善点を事業場内で尊重し、実行できるようになりました。
具体的には、以下の取り組みが行われています。

・ こころの健康づくり計画を策定し、全社に周知した

企業全体にこころの健康づくり計画を周知することで、メンタルヘルス対策が経営管理の一部という認識が生まれました

・ 産業保健組織を部門として独立させ、専門機能を執行する機関とした

産業保健組織に、アドバイスだけでなく、産業医や産業保健師の助言を元に計画を実行できる機能を持たせました。その結果、部門内でPDCAサイクルを回し、継続的かつ計画的なメンタルヘルス対策を目指す体制を完成させました。

・ 個人情報の保護に努めた

社内規定の整備や、データ管理との面談を実施することで、ストレスチェックの結果をはじめとした個人情報の保護に配慮しました。

上記の例はA社の経営者が健康経営へ大きく舵を切ることで、管理監督者を中心にメンタルヘルスに対する意識が変わっていった事例です。
経営者が率先してメンタルヘルス対策へ取り組むことで、結果的にメンタルヘルス対策が経営管理の一部と考えられるまでになっていきました。

まとめ

今回は、メンタルヘルスに対する企業の取り組みについてわかりやすく解説しました。
ドクタートラストは、メンタルヘルス対策に必要な産業医や産業保健師の紹介や外部相談窓口、それにストレスチェックを提供しています。
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<参考>
・ 厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
・ 厚生労働省「こころの耳」