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【保健師監修】産業医の「名義貸し」は違法、罰則あり?トラブル・リスクを防ぐには

産業医の「名義貸し」は違法、罰則あり?トラブル・リスクを防ぐには
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従業員50名以上の事業場で選任が義務づけられている「産業医」
ただし、単に選任しているだけでは「名義貸し」の状態となっている可能性もあります。

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今回は「産業医の名義貸し」の解説、どんなリスクがあるか、また名義貸しを防ぐためのポイントをわかりやすく解説します。

産業医の「名義貸し」とは

産業医の名義貸しとは、労働基準監督署に選任報告の届けを出していながら、実際はその産業医が事業場を訪問していない、または訪問していても年に数回だけなどで、法律で義務づけられた「産業医の職務」を果たしていない状態を指します。
2015年12月にストレスチェック制度が義務化されたことに伴い、産業医の名義貸しへの取り締まりも厳しくなりましたが、厚生労働省「平成30年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、産業医の選任が義務づけられている従業員数50名以上の事業場での選任割合は84.6%にとどまります。
また、産業医を選任していたとしても毎月1回以上の訪問が行われていない事業場が67.9%、まったく訪問していない事業場も21.5%に上ります。

なぜ産業医の「名義貸し」が起こるのか

「産業医の名義貸し」が起こる理由としては、①会社側が気付いていないパターン、②産業医側が気付いていないパターン、そして③産業医紹介会社の格安プランの3つが考えられます。

会社側が気付いていないパターン

産業医の名義貸しが起こる理由の1つ目は「会社側が気付いていないパターン」です。
産業医の職務は、労働安全衛生規則14条1項で以下のように定められています。

① 健康診断の実施、および結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
② 面接指導、必要な措置の実施、結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
③ 心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施、面接指導の実施、結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
④ 作業環境の維持管理に関すること。
⑤ 作業の管理に関すること
⑥ 労働者の健康管理に関すること。
⑦ 健康教育、健康相談、その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
⑧ 衛生教育に関すること
⑨ 労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること
<出所>労働安全衛生規則14条1項をもとに作成

このうち「④作業環境の維持管理に関すること」、「⑤作業の管理に関すること」は、労働安全衛生規則15条1項に定めがあり、産業医は少なくとも月に1度、危険な箇所はないか、衛生面・作業環境に問題はないか職場を巡視するように定められています。

また、従業員数が50名を超えた事業場では、少なくとも月に1度「衛生委員会」を開催しなくてはならず、産業医の出席が求められています。

<衛生委員会>
第18条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
(中略)
2 衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員は、1人とする。
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二 衛生管理者のうちから事業者が指名した者
三 産業医のうちから事業者が指名した者
四 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
出所:労働安全衛生法

これら業務を確実に遂行すれば、産業医は自ずと月に1回以上訪問することになりますが、会社側が法定義務を把握できていない場合、「産業医の名義貸し」が発生する可能性があります。

産業医側が気付いていないパターン

業医の名義貸しが起こる理由の2つ目は「産業医側が気付いていないパターン」です。
企業から「衛生委員会の議事録を送るので、署名だけお願いしたい」と言われてしまうと、「そういうものかな?」と納得してしまい、そのつもりがなくても「産業医の名義貸し状態」が発生する可能性があります。

産業医紹介会社の格安プラン

産業医の名義貸しが起こる理由の3つ目は「産業医紹介会社の格安プラン」です。
最近は産業医の選任に産業医紹介会社を利用するパターンが一般的です。
産業医紹介会社によってサービス内容や特徴はさまざまですが、注意したいのは「料金の安さ」「格安プラン」を売りにしている会社です。
なかには「産業医の訪問は年に3回」など、「産業医の名義貸し」状態になってしまうような、プランを提供している会社もあります。
料金の安さに惹かれ、産業医の法定義務を満たさない格安プランを契約してしまい、後述する罰金を科されてしまっては本末転倒です。
また、産業医紹介会社から「2017年の改正労働安全衛生規則で、産業医の訪問頻度は2ヶ月に1回でよくなった」と説明を受ける可能性もあります。
実際、労働安全衛生規則15条の改正により、これまで毎月の実施が義務付けられていた産業医の職場巡視は、以下の条件を満たすことで2ヶ月に1回でもよいとされました。

<職場巡視を2ヶ月に1回にする際の条件>
・事業者の同意を得ること
・産業医に毎月、所定の情報を提供する

<産業医の定期巡視>
第15条 産業医は、少なくとも毎月1回(産業医が、事業者から、毎月1回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも2月に1回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 第11条第1項の規定により衛生管理者が行う巡視の結果
二 前号に掲げるもののほか、労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であつて、衛生委員会又は安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
出所:労働安全衛生規則

しかし、この改正は「産業医の訪問頻度そのもの」を減らすことを目的としたわけではなく、ストレスチェック制度をはじめとする「メンタルヘルス対策」や「過重労働対策」の強化を目指したものであり、産業医の訪問は「少なくとも月に1回」は行われるべきと考えられます。

産業医の名義貸しには罰則がある?

「産業医の名義貸し」状態を放置しておくと、以下のように企業側に罰則が科される可能性があります。
従業員数50名以上でありながらコストの観点から「産業医を選任していない」または「名義貸し産業医」のまま放置しておくと、罰金や社会的制裁など、かえって多大なリスクを負うことになります。

労働安全衛生法違反で50万円以下の罰金

産業医を選任していない、または勤務実態のない「産業医の名義貸し」状態の場合、労働安全衛生法13条1項違反として、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

<産業医等>
第13条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
出所:労働安全衛生法

違反企業として公表される

また、厚生労働省は「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として、労働基準関係法令違反にかかる事案を各都道府県労働局のウェブサイトで公表しており、誰でも閲覧ができます。
「違反企業」として企業名が載ることで、社会的な信頼失墜は免れません。

安全配慮義務違反で刑事責任や損害賠償責任

企業には、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」が民放第1条、労働契約法第5条、労働安全衛生法3条で科されています。

<基本原則>
第1条
(中略)
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
出所:民法
<労働者の安全への配慮>
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
出所:労働契約法
<事業者等の責務>
第3条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
出所:労働安全衛生法

たとえば、労働災害やメンタル疾患からの自殺などが発生した際、産業医が未選任だったり、産業医が選任されていても名義貸しの状態だったりした場合は、企業側が適切な配慮を怠ったとして、刑事責任(5年以下の懲役や禁錮、もしくは100万円以下の罰金)、損害賠償責任に問われる可能性があります。

産業医の「名義貸し」を回避するには?

ここでは、「産業医の名義貸し」を回避する方法を3つ紹介します。

会社側も「産業医業務」の知識を持つ

まずは産業医を選任する会社側の方々が産業医業務について正しい知識を身に付けましょう。
本サイトのカテゴリー「産業医」では、産業医業務をわかりやすく解説しています。

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また、独立行政法人労働安全衛生機構の「中小企業事業者の為に産業医ができること」は、産業医の役割やどのように活用したら事業場にとって有益となるのか、基本的な事項がすっきりまとまっています。
初めて産業医を選任する事業者や担当者の方はぜひ一読しましょう。

独立行政法人労働安全衛生機構「中小企業事業者の為に産業医ができること」

法定要件を確実に満たす産業医紹介会社を選ぶ

最近は紹介会社経由で産業医を選任することが一般的ですが、どの紹介会社に依頼をしたらよいか、初めてだと悩みますよね。
各産業医紹介会社のウェブサイトなどを見比べる際に着目いただきたいのはプランに「毎月訪問」など、適切な産業医訪問を遂行されることが明記されているかどうかです。
ときには小さく「隔月訪問の場合」「年3回訪問のプラン」など書かれていることもあるので注意しましょう。

産業医が訪問してくれないときは交代も検討

なかには産業医が「忙しいから」などと理由を付けて職場に訪問してくれず、名義貸し状態になるパターンもあります。
そういったときは、思い切って産業医の交代、また利用している産業医紹介会社の解約を検討するのも手段の一つです。

まとめ

今回は、「産業医の名義貸し」についてわかりやすく解説しました。
本来、産業医の名義貸しはあってはならないものですが、残念ながら今もなくなっていないのが現状です。
「さんぽみち」運営元のドクタートラストは、「産業医の名義貸し」を明確に禁止事項として定めるのはもちろん、より質の高い産業医サービスを提供すべく、経験豊富な産業医の先生に多数登録いただいております。
また、企業と産業医の相性を重視すべく、産業医候補者の書類選考、面談を企業側にお願いしており、選任後のマッチングミスを防ぐ体制を整えています。
日本全国に対応していますので、お気軽にお問い合わせください。

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<参考>
厚生労働省「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)」