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現在、メンタルヘルスへの意識の高まりから、メンタルヘルス関連の資格に注目が集まっています。
しかし、メンタルヘルス関連の資格は種類が多く、どの資格を取得したらいいのかわからない人も多いのではないでしょうか。
また、受検資格や難易度も資格ごとに異なるため、非常にわかりにくいです。
今回はメンタルヘルス対策に役立つ資格の種類や受験資格について詳しく説明します。
目次
メンタルヘルスに関わる資格にはどんなものがある?
メンタルヘルスに関わる資格の数は多いですが、大きく分けると国家資格と民間資格に分かれます。
国家資格は受験資格を得るためのハードルが高く、取得まで時間がかかる傾向があります。逆に民間資格は、長くても1年程度で所得できるものが多いです。また、そもそも受験資格を必要としない民間資格も存在します。
国家資格は国が定めた資格であり、特定の職業に就く際に必ず必要になる資格です。
一方、民間資格は専門的な知識を有している証明なので、主に転職の際に役立ちます。
産業医【国家資格】
産業医には医師の国家資格が必要です。加えて、専門的な知識を得るための研修などが必要になります。
労働安全衛生規則では産業医の要件を以下のように規定しています。
(産業医及び産業歯科医の職務等)
第14条
<中略>
2 法第13条第2項の厚生労働省令で定める要件を備えた者は、次のとおりとする。
一 法第13条第1項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
二 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの
三 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
四 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
五 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
出所:労働安全衛生規則
産業医は、医師としての知識だけでなく、労働者の健康を管理するための専門知識を持っていなければいけません。
そのため、研修や大学での実習、またはそれに準ずる経歴や資格が必要です。
また、前提条件である医師免許も、6年制医科大学の卒業が受験の条件となっており、非常に時間と労力がかかる難易度の高い資格です。
働きながら取得するのはほぼ不可能と考えていいでしょう。
産業医を選任する際は外部機関を利用する企業が多いです。
保健師・産業看護師【国家資格】
保健師や看護師もメンタルへルスに関わる重要な国家資格です。
特に産業保健師や産業看護師として活動する場合、労働者のメンタルヘルス対策において重要な役割を担います。
産業保健師と産業看護師ともにメンタルヘルスに関する知識を有しており、実際にメンタルへルス不調者が出てきた際の対応や予防の観点から、ストレスチェックの実施や面談、保健指導をおこなうのも重要な業務です。
看護師と保健師の試験を受けるためには、大学や短大、専門学校の卒業が必要になるため、働きながら受験するのは難しいでしょう。
選任する場合は外部機関を利用するのがおすすめです。
労働衛生コンサルタント【国家資格】
労働衛生コンサルタントは厚生労働省が認めた労働衛生のスペシャリストです。
保健師よりも、より衛生管理を重視した国家資格で、事業場の診断や改善指導をおこないます。
労働衛生コンサルタントは労働安全衛生法によって以下のように定義されています。
(業務)
第81条 労働安全コンサルタントは、労働安全コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の安全の水準の向上を図るため、事業場の安全についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。
2 労働衛生コンサルタントは、労働衛生コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の衛生の水準の向上を図るため、事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。
出所:労働安全衛生法
労働衛生コンサルタントは企業の労働安全管理体制などの診断や改善指導、労働安全衛生法に基づいた事業場の衛生管理をおこないます。
メンタルヘルス分野においても、労働衛生コンサルタントが果たす役割は大きく、労働環境改善計画の策定や実施も業務の一つです。
休職者がでた際に、事業場の就業規則や社内規定までチェックして問題の改善をはかります。
受験のためのハードルは高く、一定年数の衛生管理業務の経験が必要です。
または医師免許などを取得していれば、実務経験がなくても受験できます。
参考:公益財団法人「安全衛生技術試験協会」
労働衛生コンサルタントは実務経験によって受験資格を得ることができるため、実務経験を持つ保健師や衛生管理者は働きながら受験も可能です。
しかし試験の難易度が非常に高く、試験に向けて相当な勉強が必要になるでしょう。
精神保健福祉士【国家資格】
精神保健福祉士は精神保健福祉法で定められた国家資格です。
1950年代から精神科ソーシャルワーカーの名前で活躍してきましたが、1997年に精神保健福祉法の施行によって、名称の変更とともに活動の幅が大きく広がりました。
現在では病院だけにとどまらず、福祉施設や行政機関、学校、企業でも精神保健福祉士は活躍しています。
精神保健福祉士について、精神保健福祉法では以下のように定義しています。
(定義)
第2条 この法律において「精神保健福祉士」とは、第28条の登録を受け、精神保健福祉士の名称を用いて、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第5条第18項に規定する地域相談支援をいう。第41条第1項において同じ。)の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うこと(以下「相談援助」という。)を業とする者をいう。
出所:精神保健福祉法
精神保健福祉法では精神障害者への相談支援がクローズアップされていますが、環境の変化にともない、現在では、メンタルヘルスの課題を持つ人への援助も精神保健福祉士の業務のひとつになっています。
精神保健福祉士試験の受験資格を得るには、福祉系の4年制大学を卒業するほか、短大や専門学校の卒業に加えて、一定年数の実務経験を積まなくてはいけません。一般の4年制大学卒であれば、精神保健福祉士短期養成施設で受験資格を得るという方法もあります。
いずれにしても通信で取得する方法はなく、働きながら資格の取得を目指すのは難しいでしょう。
公認心理師【国家資格】
公認心理師は2017年に施行された公認心理師法によって認められた、日本初の心理職の国家資格です。
今までは心理職の資格は、民間資格である臨床心理士しか存在しませんでした。
しかし、メンタルヘルスに関する問題が増加し、心理専門職の需要が高まったことなどを背景に公認心理師が誕生しました。
公認心理師について、公認心理師法では以下のように定義しています。
(定義)
第2条 この法律において「公認心理師」とは、第28条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
1 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
2 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
3 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
4 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
出所:公認心理師法
公認心理師は心理に関する専門的な知識を有し、病院や福祉施設、学校、企業などさまざまな場所で活躍しています。
それぞれの現場で、心理的な援助を必要とする人たちの相談に応じ、必要な援助や指導をおこなうことが公認心理師の主な業務内容です。
公認心理師試験を受験するためには4年制の大学で必要な科目を修めて卒業することを前提条件として、大学院で必要な科目を修了するか、実務経験を2年以上積む必要があります。
加えて、新しい法令なので、2017年以前から心理職に就いていた人への特例措置も存在します。
公認心理師試験の合格率は高いものの、受験資格を得るまでに時間がかかるため、働きながら取得を目指すには難易度が高いでしょう。
臨床心理士【民間資格】
公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が実施、認定しているのが臨床心理士です。
心理職の代表的な民間資格であり、社会的な信頼性が高い資格として知られています。
元々は病院や児童相談所での業務が多かった臨床心理士ですが、現在は学校や企業で活躍することが増えてきました。
特に、企業でのメンタルヘルスケアへの関心の高まりから、企業で活躍する臨床心理士の雇用のさらなる拡大が期待されています。
臨床心理士に求められる専門行為について、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の公式サイトでは以下のように解説しています。
① 種々の心理テスト等を用いての心理査定技法や面接査定に精通していること。
② 一定の水準で臨床心理学的にかかわる面接援助技法を適用して、その的確な対応・処置能力を持っていること。
③ 地域の心の健康活動にかかわる人的援助システムのコーディネーティングやコンサルテーションにかかわる能力を保持していること。
④ 自らの援助技法や査定技法を含めた多様な心理臨床実践に関する研究・調査とその発表等についての資質の涵養が要請されること
出所:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」
臨床心理士はこころの問題を抱える人へ支援をおこないます。
臨床心理査定や臨床心理面接による、個人への支援にとどまらず、学校や地域住民、企業などコミュニティ全体のメンタルヘルスへの理解の底上げも重要な業務です。
臨床心理士試験を受験するためには、大学院で必要な科目を修めて卒業しなければいけません。
または通信制の大学院を卒業したのち、1年の実務経験を積むことでも受験可能です。
臨床心理士は民間資格のなかではかなり受験までのハードルが高い資格です。
通信制の大学を修了しても、実務経験が必要になるため、働きながらの取得は難しいでしょう。
メンタルヘルス・マネジメント検定【民間資格】
メンタルヘルス・マネジメント検定は民間資格で、職場でのメンタルヘルス対策の知識を問う検定です。
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づいて、大阪商工会議所と施行商工会議所が実施しています。職場でのそれぞれの立場に合わせて、3つのコースから選択して受験することが可能です。
Ⅲ種(セルフケアコース) | 一般社員向け。自分のストレス状況を把握し、自らケアができる。必要なら周りへ助けを求めることができる |
Ⅱ種(ラインケアコース) | 管理監督者向け。部下の不調を予防し、不調に陥ってしまった際は、安全配慮義務に則った対応ができる |
Ⅰ種(マスターコース) | 人事労務管理者向け。産業保健スタッフと連携し、メンタルヘルスケア計画の立案と実施ができる |
メンタルヘルス・マネジメント検定は、専門的な職についたりすることはできない資格です。
しかし、立場ごとに必要なメンタルヘルスの知識を得ることができるため、非常に有用な検定となっています。
受験資格は特になく、全員がどのコースでも受けることが可能です。
参考書もあり、じっくりと勉強して試験を受けることができるので、働きながら受験しやすい資格といえるでしょう。
大阪商工会議所と施行商工会議所が公開しているデータによると、メンタルヘルス・マネジメント検定はⅢ種の合格率が71.2%、Ⅱ種の合格率が46.4%、Ⅰ種の合格率が19.8%で、Ⅰ種の難易度が非常に高くなっています。
産業カウンセラー【民間資格】
一般社団法人日本産業カウンセラー協会が主催・認定しているのが、産業カウンセラーという民間資格です。
産業カウンセラーは、メンタルヘルス研修や企業へのアドバイス、ハラスメントへの対応など、労働者の抱える心理的問題を支援するための知識と技術を持っています。
産業カウンセラーは心理学的なアプローチをおこなうため、心理学の知識を有しているのが大きな特徴です。
受験資格を得るためには日本産業カウンセラー協会が開催している産業カウンセラー養成講座を受講する必要があります。
6ヶ月コースと10ヶ月コースがあり、スケジュールによって選択可能です。
加えて、通学+Web配信講義形式なので、仕事をしながら、空いた時間で勉強を進めることができます。
EAPメンタルヘルスカウンセラー【民間資格】
EAPメンタルヘルスカウンセラーはNPO法人であるEAPメンタルヘルスカウンセリング協会が認定している民間資格です。
メンタルヘルスカウンセラーとしての知識と技術で、労働者のメンタルヘルス不調を予防します。加えて、EAPとよばれる従業員支援プログラムの知識を持ち、EAP導入のスキルも持っています。
労働者個人に対する支援にとどまらず、企業に対して、EAPの導入によるメンタルヘルス不調の予防を目的とした組織づくりの提案が可能です。
メンタルヘルスカウンセラーはEMCA認定カリキュラムを受講することで受験できます。
期間は6ヶ月で通信授業も可能なので、比較的取得しやすい資格といえるでしょう。
ケアストレスカウンセラー【民間資格】
一般財団法人職業振興会が主催、認定しているのがケアストレスカウンセラーという民間資格です。メンタルヘルスに関する基本的な知識の習得を目的としています。
ケアストレスカウンセラーは受験資格も特になく、独学で受験可能です。
受験費用も10,000円と比較的リーズナブルなことから、メンタルヘルス関連の資格の入門編にはうってつけでしょう。
加えて、職業振興会では、企業の管理職に求められるメンタルヘルス対策に特化した「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」も主催しています。
こちらも公式テキストでの独学受験が可能なので、働きながら気軽に受験することができます。
ストレスチェックコンサルタント【民間資格】
2015年にストレスチェックが義務化されたのにあわせて、新しく資格認定がスタートしたのがストレスチェックコンサルタントです。
一般社団法人全国心理業連合会が主催、認定をしています。
実際にストレスチェックを実施するのは産業医や産業保健師です。
しかし、ストレスチェック制度を導入する際には、衛生委員会にて調査審議をおこない、実施規定を定める必要があります。
ストレスチェックコンサルタントはメンタルヘルスの専門的な知識を持ち、ストレスチェック制度の導入から、実施、分析、アフターフォローまでの一連の流れをサポートすることができます。
受験のハードルは低く、3日間の講習を受ければ誰でも受験することが可能です。
注意点として、Web講習がないので講習と試験は実施会場に行って受ける必要があります。
メンタルヘルス関連の資格取得は今からでも間に合う?
種類にもよりますが、メンタルヘルス関連の資格は今からでも十分に間に合います。
特に民間資格は講習を受ければ、受験資格を得ることができるものがほとんどです。
加えて、多くの資格がWeb講習で受験資格を得ることができるため、働きながら資格を取る難易度は下がってきています。
民間資格の専門的な知識は、セルフケアやラインケアの充実がみこめます。また、資格ごとの得意分野を生かして、セミナーを実施したり、衛生委員会に参加したりすることは、企業のメンタルヘルス対策を大きく前へすすめることになるでしょう。
転職の際にも有利に働く場合が多いです。
その一方で、国家資格は受験資格が厳しいものが多く、働きながら取得するのは難しいでしょう。
しかし、事業場によっては産業医を選任する義務があります。
その場合、外部機関を利用するのがおすすめです。企業にあった産業医や産業保健師を選任することができます。
外部の有資格者という選択肢も
今回は、メンタルヘルス対策に役立つ資格についてわかりやすく解説しました。
メンタルヘルス関連の民間資格は働きながら取得できるものが多いです。一方で、産業医や産業保健師などの国家資格は受験のためのハードルが高く、外部機関をうまく利用していくことが必要になるでしょう。
ドクタートラストは、産業医や産業保健師の選任のお手伝いをおこなっています。
またメンタルヘルス対策のご相談も受け付けているので、お気軽にお問合せください。