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産業医がいない小規模事業場で長時間労働者や休職者が発生した場合は、地域産業保健センターへの相談やスポット契約を活用しましょう。
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この記事では、産業医がいないときの相談先について解説します。
目次
産業医がいないのは違法?
産業医の選任は労働安全衛生法で義務づけられており、違反した場合は罰則があります。
(産業医等)
出所:労働安全衛生法
第13条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
産業医の選任義務は、一定以上の規模を超えるすべての事業場に対して義務付けられており、労働者の人数や実施している業務の内容によって産業医の人数も細かく規定されているため、企業の担当者は産業医の選任条件を知っておく必要があるでしょう。
産業医の選任義務
産業医には月に数回の訪問をおこなう嘱託産業医と、企業に常勤して業務を行う専属産業医が存在しており、事業場の規模によってどちらを選任すべきかが変わってきます。
選任すべき産業医の人数は以下のとおりです。
労働者の人数 | 選任すべき産業医の人数 |
50~499人 | 嘱託産業医1人 |
500~999人 | 嘱託産業医1人または 専属産業医1人(有害業務を実施している事業場の場合) |
1,000~3,000人 | 専属産業医1人 |
3,001人以上 | 専属産業医2人 |
つまり、1,000人以上の事業場で嘱託産業医との契約しかない場合も法令違反となってしまうため、事業場の労働者の数については常に正確に把握しておく必要があるでしょう。
また、産業医は必要となった時点から14日以内に選任して、管轄の労働基準監督署に報告しなくてはいけません。
産業医を選任しないときの罰則
産業医の選任を怠った場合は50万円以下の罰金が労働安全衛生法で定められています。
この罰則は専属産業医が必要にもかかわらず嘱託産業医しか選任していなかったり、産業医の人数が足りなかったりした場合も適用されます。
また、産業医の「名義貸し」も罰則の対象です。
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違反した企業は、各都道府県労働局のWebサイトで企業名が公表されるため、社会的な信用の失墜と企業運営への悪影響は避けられません。
50人未満の事業場では「努力義務」
50人以上いる事業場には選任義務がありますが、50人に満たない事業場に関しては努力義務にとどまっており、産業医がいなくても罰則はありません。
しかし、小規模事業場でも長時間労働者や休職者への面談の際には産業医が必要になります。
また、メンタル不調は作業効率の低下や休職、退職を招くため、企業の規模にかかわらず産業医を選任し、産業保健体制の整備が重要です。
政府も産業医の選任を推進しており、産業保健にかかる費用に対する助成金も用意されています。
独立行政法人労働者健康安全機構「『団体経由産業保健活動推進助成金』の手引き(令和4年度版) 」
現在は努力義務にとどまっていますが、権限が強化されるなど、社会的に産業医の重要性が高まっており、今後は50人未満の企業についても選任が義務化される可能性は十分にあるでしょう。
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産業医がいない場合に困ること
従業員が50人未満の事業場でも、産業医が必要なシーンがあります。
産業医の選任については努力義務にとどまっていますが、規模にかかわらず企業は従業員の健康を守る必要があり、法令で産業医による面談を行うべき場面について規定しています。
健康診断後の就業判定
企業の規模に関係なく、企業は従業員に対して健康診断を実施しなくてはいけません。
もし、健康診断の結果に異状がみられる場合、産業医による面談を行い、就業制限や休業の必要があるかどうか意見を仰ぐ必要があります。
産業医の選任義務がない事業場では、外部機関の医師の意見でもよいとされていますが、事業場の様子や業務内容を知っている産業医が行うのが望ましいでしょう。
ストレスチェック
50人以下の事業場では努力義務にとどまっていますが、もしストレスチェックを実施する場合には産業医が必要です。
ストレスチェックの実施には産業医や保健師などのストレスチェック実施者の選任が必要であり、多くの事業場では産業医が務めます。
また、ストレスチェックの結果、高ストレス者に該当する従業員がいた場合、本人が面談を希望した際に産業医による面談を実施しなくてはいけません。
休職・復職判断
休職や復職の際にも産業医による面談を実施し、その意見を参考に実際の措置を決定します。
事業場で産業医を選任していない場合、外部医療機関の診断書などでも判断可能ですが、事業内容や職場環境、業務内容などに詳しい産業医による面談を行うことが望ましいとされています。
長時間労働者への面談
月80時間を超える時間外・休日労働を行った従業員が面談を希望した際にも産業医が必要です。
基本的に、厚生労働省は時間外労働が80時間を超える従業員には面接指導を行わなければならないとしています。
そのため、時間外労働が80時間を超える従業員が発生した場合には、積極的に産業医による面談を勧奨する必要があるでしょう。
小規模の事業場で産業医を選任するメリット
産業医選任義務のない50人未満の事業場でも、産業医の選任は大きなメリットがあります。
生産性の向上
産業医の選任は、従業員の健康につながり生産性を向上させます。
2018年の研究では、健康リスクが悪化することで、労働生産性が下がる傾向がみられました。
健康リスクが高い従業員は睡眠習慣の悪化やストレスの蓄積がみられる状態であり、出社しても本来のパフォーマンスを発揮できません。
つまり、健康リスクの低い健康な従業員を、産業医などの専門家の協力によって増やすことで、事業場全体のパフォーマンスが上がっていきます。
休職・離職対策
休職や離職は、企業にとっては避けなくてはいけないリスクです。
新たな人材の確保や教育には多大なコストがかかりますし、休職や離職によってほかの従業員へ業務のしわ寄せが起こり、新たなメンタルヘルス不調者を生み出す恐れもあります。
従業員のメンタルヘルスは生産性にも関わってくるため、人員も減り、生産性も下がってしまうという、八方塞がりな状況を引き起こしかねません。
そのため、産業医によって職場環境を改善することで休職や離職が起こるリスクを抑制し、もし休業者が出てしまった場合にも、専門家による細かなケアによっていち早く復帰できるようサポートしていく体制の構築が必要です。
企業と従業員の信頼関係構築
産業医の選任などの従業員の健康への投資は、企業への信頼感につながります。
企業への信頼感や安心感はワーク・ライフ・バランスに大きく影響するため、生産性や離職率にも直結します。
そのため、企業が従業員の健康に投資し、従業員の信頼感が高まっている状態を目指すことで、企業の安定的な成長につながっていくでしょう。
また、こうした従業員を大切にしている姿勢は現在の従業員の帰属意識を高めるだけでなく、求職者に対するアピールにもなります。
「求職者に選ばれる職場」を目指すためにも、産業医を選任して、職場環境を整える必要があるでしょう。
産業医がいないときの相談先は?
長時間労働者や休職者が発生すれば、産業医がいない事業場でも対応が必要です。
もし、放置すれば法令違反となるだけでなく、労災に発展した場合は刑事事件や安全配慮義務違反で訴訟に発展する可能性もあるため、速やかな対応が求められます。
産業医を探すときの相談先を紹介します。
医師会
事業所のある地域の医師会に相談すると産業医を紹介してくれる場合があります。
医師会はその地域の医師の情報を登録しているので、事業場近くの産業医を選任することができます。
しかし、すべての医師会で産業医の紹介を行っているわけではないため注意が必要です。
また、仲介を行っているわけではないため、産業医との契約はすべて自分たちで行う必要があり、「急いで産業医と契約しなくてはいけない」という状況では、適した相談先ではないかもしれません。
検診機関
産業医の紹介を行っている健診機関や医療機関に相談する方法もあります。
いつも健康診断を実施してくれている先生を紹介してもらえるので、知らない産業医を紹介されるよりも安心です。
しかし、あくまでも健診機関は健康診断などをメインに行っているため、時期によっては産業医の紹介をおこなっていない場合があります。
また、そもそも在籍している医師の数が少ないので、企業に合った産業医を選任するのは難しいでしょう。
産業医紹介サービス
産業医紹介サービスを利用して産業医を選任しても良いでしょう。
産業医紹介会社にはたくさんの産業医が登録しているため、行ってほしい業務に適した産業医を選任することができます。
選任手数料などがかかりますが、スポット契約などを利用して経費を抑えることも可能です。
産業医紹介サービスを利用すれば、契約などすべてサポートしてもらえるため、「いますぐ産業医と契約したい」という企業にはぴったりの相談先でしょう。
地域産業保健センターなら「無料」で相談可能!
前述した相談先以外にも地域産業保健センターを利用する方法もあります。
地域産業保健センターは50人未満の小規模事業場に対して産業保健サービスを無料で提供しています。
・健康相談
・産業保健指導
・産業保健情報の提供
地域産業保健センターは、ほかの相談先のように産業医を紹介しているのではなく、産業保健サービス自体を提供しているため、同じ産業医が続けて担当することがありません。
また、利用回数にも制限があります。
地域によっては地域産業保健センターが混んでいる場合もあり、すぐに産業医面談を利用できない場合もあるようです。
しかし、産業医契約なしで産業医面談を実施できるため、小規模事業場は積極的に利用したいところです。
小規模事業場ならスポット契約での相談がおすすめ
もし、いま事業場で長時間労働者や休職者が発生しているなら、産業医紹介サービスへ相談してスポット契約を利用しましょう。
スポット契約とは嘱託産業医や専属産業医のように一定の期間にわたって雇用するのではなく、訪問回数や時間を決めた単発契約であり、小規模事業場で産業医が必要な事案が発生した際などに利用されます。
基本的に、産業医紹介会社が間に入る契約なので、必要なタイミングですぐに契約することが可能です。
また、紹介会社に登録するたくさんの産業医のなかから選任できるため、事業場で発生している事案に適した産業医を選任できます。
地域産業保健センターとは違い有料ですが、嘱託産業医と契約するよりも安価で利用できるため、「今すぐに」「問題を解決できる」「できるだけ安価な」産業医を選任するには非常に有効な方法です。
「さんぽみち」運営元のドクタートラストは、嘱託産業医契約やスポット契約など、さまざまな契約内容に対応しています。
また、企業の要望にあわせて契約内容を調整することもできるため、お気軽にお問合せください。
<参考>
独立行政法人 労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」
古井祐司、村松賢治「健康経営を実践する中小企業を対象とした労働生産性とその影響要因に関するコホート研究」